「鵜飼町666──水田ふう・向井孝の書棚」は水田ふう・向井孝が遺した、ふたりの手になる印刷物と、未知の仲間との接点をつくることを目的として開設されました。 第一弾として、ウリ-ジャパン機関紙「非暴力直接行動」全号を掲載します。 以降、第二弾、第三弾として、水田ふう個人通信「風」、向井孝個人通信「IOM」の掲載予定しています。  毎月6日に更新します

風 39号

  • イラク派兵に揺れながら・・・ でもデモ

十二月十二日朝、いつものように、新聞をひろげて読んでたら、「自衛官の妻」の記事が目にとまった。読み終わるなり、すぐパソコンに向かった。

  自衛官の奥さまへ

 今朝の新聞(朝日・十二日)に「小牧基地隊員の妻は」という記事が載っていました。

 『私が思いきって「自衛隊辞めたら?」と言いました。夫は「辞めない」と答えました。「自分も行きたくて行くわけじゃない。でも、だれかがいくんだから」と。この言葉を聞いて私は、ここまで来たら夫の意志を尊重してあげたい、多くの国民に前向きに送り出してほしいと思うようになりました。待つ方だってやりきれないのです。』

この文章を読んで、わたしは、いてもたってもいられない気持ちになりました。隊員たちも妻たちもとても悩んで苦しんでおられる。それがよく伝わってきました。

 「誰もいきたくないんだ」「自分が辞めたら誰かがかわりに行かなければならない」「だったら自分が行く」というのはとても義侠心のある男らしい気持ちだと思います。自衛隊員としても夫としても父親としてもとてもいい人にちがいない、と思いました。

 でも戦争というのはいつでも、こういういい人、いい夫、いい父親によって担われてきました。そして、それは妻たちが送り出したのです。夫の内心の「いくのは嫌だ」という気持ちを妻たちの励ましによって奮い立たせ、戦地に赴いたのです。

 日本のマスコミやアメリカ政府は公表しませんが、いまイラクに送られたアメリカ兵のうち一七〇〇人もの兵士が脱走しています。その何倍もの兵士が傷ついています。イラクの人たちの死傷者はその何百倍もになるでしょう。日本の自衛隊がいくことで、また何人かの死傷者がでることになります。みなそれぞれに家族がいるのです。

 いまインド洋に派遣されている自衛官は延べ五六三〇人、そのうち約六〇人が補職替え、つまり配置転換を希望し、実現していると聞いています。海外派兵を断っている隊員もいるのです。でもそういう隊員はその後の出世や隊内で卑怯者扱いされたり居心地が悪くなるかもしれません。

 

 卑怯者でいいじゃないですか。弱虫でいいではないですか。自分は行かないで、人殺しをするかもしれないようなことを、ひとに命令するような人間たちより、卑怯者になるほうがよっぽどましです。弱虫がいいんです。

 女は女々しくていいんです。男も男らしくなくていい。

 恋人の自衛隊員がイラク派遣に選ばれたことを知って、一人で派遣反対の署名集めを街頭で始めた札幌と千葉の若い女性のことも同じ紙面にのっていました。国や世間がどういおうと、どんな「大義」があろうと、まず自分のきもち「いやなものは、いやだ!」「いかないで!」と、土壇場になっても、わたしだったら言いたい。言う。

 「わたしは自衛隊がイラクに行くことに反対です。」

 

                      犬山市鵜飼町 安田佐知子(これはわたしの戸籍名。近所では安田で通ってるので、この名を使った)

  

これを午前中に書き終わって、紙と封筒を買いに行って、市民センターで印刷して、封筒書きはまだ途中やったけど、中島くんに「明日小牧に行く」と電話したら、「明日は中核が全国結集するから警戒が厳しいと思うよ」「官舎の敷地に不法侵入罪いうことで、ひょっとして逮捕いうこともあるかもしれないから一人でいっちゃダメ」というので、急いでガサ対して(これがめんどくさかった)、朝日新聞にもその人にわたしてくださいいうて、自衛官の「奥様へ」を郵便で送って(年明けになってこのわたしからの手紙をみた記者が取材にきて、一月二二日の朝日の名古屋版朝刊に写真入りで大きく載った。記事の仕立て方がいかにもって感じでいややったけど・・)、次の日小牧基地に、逮捕された時のことも考えて、訳を言って猫のエサを近所にたのんで、着替えにタオル、洗面用具を持って出かけたんやった。

十三日はいいお天気やった。名古屋からばーばらが来てくれた。小牧線「牛山」駅から降りて五分も歩くと機動隊が護衛する小牧基地の正門がある。百メートルほど右手にいったところに「航空局官舎」の団地があった。敷地内にはカマボコが二台とまっていて、機動隊がウロウロしてた。家族の出入りもある。それを「ここ違うみたい」「あっちかな」なんて二人で適当に掛け合いしながらやりすごし、ちょっとだけスリルもあって、おもろかった。行きはドキドキ帰りはウキウキ。そして、「そうや、これや!」と浮かんできたのが、おいちゃんの最後の原稿「表現・発散・解放としてのアナキズム」のなかのことばや。

 手紙入れは、二百五十戸ぐらいやったから、あっというまに終って何事もなく、すんでしまえばアホみたいなことやねん。そやけど、おいちゃんは「……運動は何かの問題を自分の問題としてやるもんやろ。そしてやることはまず何よりも自己発散やねん。何よりも自己解放の問題やねん。自分がやりたいと思うて、しかもやれるようにどう工夫してやるか、やねん。すると結果としての、その成否とほとんど関係ないんや。……」「つまり表現の追求……」「…その都度一回きりのものやけど、いわば人間本来が求める遊びでもあり、創作発表のようなドキドキすること、そのよろこびや楽しさがあってこそやれる……」と云うてる。つい、こんなこと一回してもどうなるもんやなし、とか思ってしまうし、そして事実そうなんやけど、ことの成否ではないねん。まず、なによりも自分が……やねん。それが大事やねん。いままでおいちゃんといっしょにやってきたいろいろなこともそれやったんやんか。

 

デモのときかてそうやった。それまで名古屋でデモがあると出かけてたりしたんやけど、なーんかおもろない。警察も主催者も「ハイ、四列になって」と規制する。名古屋の仲間がリヤカーに積んだアンプの音響に、主催者が「ボリューム落して」とくる。そう、まるで「捕虜の行列」(誰が云うたか、よう云うたもんや)や。型どおりのシュプレヒコールに合わせておとなしく歩くだけのデモなんて、ちっともおもろない。よけい虚しい気持ちになってくる。はじめは遠慮してたけど、たまらん気持ちになってきて、マイク借りて突然……

「あー、あー、あーーーーー」「あーーーーーーー」と叫んでしまった。

「うちの<成長の家>のおかんでさえ、ブッシュはおかしい、小泉さんはへんやいうてる。ほんまはみんな知ってるんや。」

「おかしいとみんな知ってて……あーーーーーーーーーー」

「わたしは頭にきてるんやーーー。」

「九条があってもなくても反対やーーーー」

「ブッシュはイヌにかまれて死ねーーー」

「小泉は鳥インフルエンザにかかって死ねーーーー」

「おとなしく、四列で歩いてなんかいられるかーーーーーーーー」

「あーーーーーー」「あーーーーーーーーー」

まるで負けイヌの遠吠えやけど、やっとデモしてる気分になった。やっぱり

自分の気持ちが「表現・発散・解放」されんことにはなあ・・・。

 

と、ここまで書き出した今朝(一月三十一日)、中島くんから「ナブルス通信」が転送されてきた。

 

「ラファ難民キャンプでの新たな犯罪。

一月十四日

恐ろしく冷え込みのきつい雨の日。イスラエル軍は十軒の家を壊し、住んでいた人たちを路上に追いやった。……ホームニー家の主人は子どもたちのためにせめて家から毛布と衣類を持ってこようとしてイスラエル兵からしこたま暴行を受けた。……病院はイスラエル兵によって怪我をおわされたひとたちであふれている。

……二日まえには、同じ地区のオリーブの木と養鶏場、羊牧場をめちゃくちゃにされた……

家の前に、イスラエル軍が監視塔を建て……兵士たちはその家の住人をターゲットにして銃撃を浴びせ続け、夜には電灯を撃ち、給水タンクを撃ち、地下の水道管を壊す……住民はしかたなく家を出て行く……」

 

 ああー、またしても暗澹とした気持ちになる……。寒空の夜、瓦礫のなかに一人うずくまった少年をまえにして、「表現・発散・解放」もあったもんやないやんか……と、思ってしまう。

 

 今って、わたしのようにほとんど家のなかで暮してるもんでも、毎日世界のひどい情況が伝わってくるし、自衛隊のイラク派兵のようなとんでもないことが目の前でおこっていて、小泉やテレビに出てくる学者や評論家のいう「ことば」というもんが、いかにぺらぺらしたいいかげんなもんかってことも、みんな知ってる。えらい事態になってるとみんな思ってるんやんか。むかしみたいに「だまされた」とはいわれへん。

 ヒットラーは「うそでも百回いったらほんとうになる」といい、ゲッペルスが「さらに千回でも一万回でもくりかえしたら、人々はうそでもほんとうでもどちらでもよくなる」と云うたそうやけど、今はまさに、うそでもほんとうでもどうでもええ、という感じなんちゃうか。わたしかて、小泉がしゃべるのテレビで観てたらあほらしなって、もうほんまに、怒りが萎えるちゅうか・・・。怒りの発散の出口がないんや。デモしたかてなあ……

 

 で、どうしたらええんか。やっぱり自分個人にもどるしかない。「始めから負けてるんやから」「負けても負けても負けてしまわないで」「自分のやりたいことを、やれることで、好きなように」「表現・発散・解放」するよりないんや……。一回一回のその「やり方」を自分でちょっとでも「工夫」してやったらええねん。それがおいちゃんの遺言やな。

 

 日はまだ決まってないけど、名古屋で「イカレル若者たち」と「とんデモない」デモをやろうという計画がもちあがってる。創意と工夫がどれだけできるか! いまのところ有志九人! あと五十人きてくれへんかなあ! 

野次馬大歓迎! 是非名古屋へ!

 

    *                *

  •  急に「風」を出すことにしたのは、立川のテント村のひとたちが、二月二七日、住居侵入罪で令状逮捕されたからなんや。かれらも自衛隊官舎にビラ入れしたんやけど、そのビラ入れは一月一七日らしいから、なんと一ヶ月もたった事後逮捕や。合計六ヶ所にガサもいってる。逮捕された三人は二一日も拘留されて、あろうことか起訴された。いまだに拘留が続いてて、その上接見禁止というんやから、もうめちゃめちゃや!
     抗議の電話をかけた人に警察は「自衛隊の(官舎の方ではなく)上層部から被害届があり、法律に基づいて逮捕した」「自衛隊のイラク派兵に反対しているチラシであり、今こういうときに士気が下がるとかいろんな都合がある」と、こんなことをポロッと白状したんや。
     テレビニュースを見たひとがいうには、早朝逮捕された人は、玄関の外ですでに待ち構えていたテレビ局のカメラにうつされ、実名入りで全国に放映された。警察の方の顔はといえばていねいにも隠してあったんやて。どっちもこっちも、完全にグルや。
     東京の中島くんや大阪の坂口くん、それに大牧さんから「ふうさんは逮捕されてないかあ」いう電話をもらってこの事態を知ったんやけど、こんなことで逮捕されたりガサをやられた日にゃ、なんにもでけへん。毎日ガサ対なんてしてたら、その日の用も足せへんやんか。
     ポストのビラ入れなんて、いろんな広告が毎日毎日どこのマンションでもアパートでも官舎にかてはいってるやろ。そのうちの自衛官官舎でのイラク派兵反対のだけが逮捕やガサの対象になったってことは、この国はもうはっきりと戦時下やいうこっちゃ。
     保釈金、裁判費用を含めて、いま、一千万ほどを見越してテントのひとたちがカンパを集めはじめてる。わたしらはあんまりこんなカンパを要請したりしてこんかったんやけど、少しだけでもかれらを励ましたい。私も少ししか渡されへんかったけど、この逮捕はわたしらの逮捕でもあると思って。

    立川・反戦ビラ弾圧救援会
    東京都立川市富士見町2-12-10-504 立川自衛隊監視テント村内
    042-525-9036(TEL&FAX)
    tachikawa227q@yahoo.co.jp
    http://www4.ocn.ne.jp/~tentmura/

    救援のカンパを!
    口座番号 00190-2-560928
    口座名 立川自衛隊監視テント村
    郵便振替で、「2.27弾圧・救援カンパと書いてお送りください。
    *立川市議の大沢ゆたかさんのページにも報告があります。
    http://homepage2.nifty.com/osawa-yutaka/heiwa-iraku-dannatu1.htm


    ● 去年四月に十三階をひきはらってから、もうずっと天王寺あたりには行ってないんやけど、大阪では、いま釜ヶ崎パトロールのひとたちが、執拗に警察に付け狙われてる。かれらとは直接知り合いなわけではないねんけど、やっぱりその運動のやり方とか雰囲気とかをきくと、NGOだとかなんだとかいうより親近感がわくな。
     二月のこと、そのひとりが野宿の仲間に年金受給や就労支援のために自宅の住所を住民票の置き場として貸したことが「違法」いうことで逮捕。三月には、免許証の住所が実家の住所になっていた、いうことで別のひとりが捕まえられた。まあ、いつもの手口やな。
     いまは二人とも出てるけど、二月に捕まえられたかれのところには起訴をちらつかせるおどし電話が、毎日私服からかかってきてるという。(これは法律的にいっても違法行為)
     日本の裁判は、罪ではなく、思想を裁くもんやいうことは、幸徳の昔からアナ族は骨身にしみて思い知らされてきた。戦争にのめりこんだ分、これからますますその本性を剥き出しにしてくるやろ。邪魔者は消される・・・
     ともかく、釜パトのひとたちにも注目してて欲しいと思って。
    ● こないだの二〇日の扇町公園の反戦デモで、かれらに襲い掛かって来た私服を撮った動画が公開されてる。ヤフーとか入ってる人なら見れると思う。見ればわかるけど、取り調べの際の会話を暴露され逆ギレ。これが警察の正体! 見物やで。

    http://page.freett.com/kamapat/
    釜ヶ崎パトロールの会
    e-mail:kamapat@infoseek.jp
    website:http://www.geocities.co.jp/WallStreet/9279/
    郵便口座:00930-6-139747(大阪キタ越冬実名義)
    ● 救援カンパは「反弾圧救援カンパ」などと明記して下さい。
  • 池田さんとのあれやこれや